ゴーーーーール!

秀人(しゅうと)は、タイムマシーン研究所長の一人息子である。所長の悠人(ゆうと)は「ひでと」と命名したかったようだが、
「そんなまじめそうな名前はだめっ!伝説の『キャプテン翼』の「つばさ」くんの方が良いんだけど。せめてぇ、呼び方は『シュート』にしてっ!」
という、ワイフの凜(りん)の一言で、「しゅうと」に決まったと聞いている。「名は体を表す」と言うのか、秀人はサッカーボールがお友達というくらい、サッカー大好き少年へと育って行った。しかし、彼は運動が苦手な所長のDNAを脈々と引き継ぎ、残念ながら技術が伴っていなかった。。。
今日は大事なトーナメント大会の1回戦だ。いつも控え選手の、そのまた控え選手の秀人が、こうした大会でピッチに立つことはほとんどない。それで、試合の日になると、秀人はうつむき加減で元気が無いのがいつもの光景となっている。ところが、今日は背筋が伸び、ニコニコ顔で颯爽とグランドへと向かって行くでは無いか。それもそのはず、彼の右手には真新しいシューズケース、その中には、スポーツ店では見かけない漆黒のサッカーシューズが収められていた。実はこのサッカーシューズ、昨日、秀人の誕生日に、父親からプレゼントされたもので、2150年に売られていた未来のサッカーシューズのようだ。その取扱説明書には、大きな太字で、
『このサッカーシューズは、98.2%の確率でゴールを外しません。どうぞ安心してご使用ください。』と書いてあった。
ピーっ!いよいよ試合が始まった。秀人はもちろん、いつものようにベンチウォーマー、スタート。緊迫したゲーム展開で、どちらもゴールをこじ開けることができず、0対0で試合は進み、今日も秀人の出る幕はない試合展開だった。両者に疲れが出始めた後半ラスト10分を切ったところで、立て続けに自分のチームの二人が負傷交代することになった。しかも控えの選手二人も風邪で体調が不十分。コーチはちらっと秀人に目をやったが、右手で自分の顎を数回撫でて考え込み、
「シュート、行くぞっ!」
秀人に思いがけないチャンスが巡ってきた。得点は0対0。残り時間は5分少々。彼は全力を振り絞り、ゴール前、約10メートル。サイドハーフから絶妙のグラウンダーのセンタリングが相手ディフェンダーの間をすり抜けて、秀人の足元に来た。
「シュート———ッ!」
コーチもイレブンも叫んだ。秀人は渾身の力で右足を振り抜いた。相手ゴールキーパーが横っ飛びして、それを追う。ゴールネットが揺れる!
「やったぁー!」
思わず、秀人は叫んだ!
ゴールには・・・。ちゃんと入っていた、サッカーシューズが。
結局、試合はその後、PKゴールを献上して0対1で負けてしまった。。。
試合後、落ち込む秀人は、ふと取扱説明書に目を落とした。説明書の一番下には、何やら灰色の小さい文字で注意事項が印字されていた。
『相手ゴールキーパーに注意してください。相手ゴールキーパーによっては、サッカーボールでは無く、本製品のサッカーシューズの方をセーブする場合があります。しかし、その確率はわずかに1.8%なので、あまり心配する必要はありません。本製品が確実にゴールネットを揺らします。』と。

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