臨時のニュース

「臨時ニュースを申し上げます。ただいまそちら方面に、極悪犯人が向かっています。ただちに戸締まりを行い、警察にお電話をしてください。」
そこの家主は、むくっと立ち上がり、玄関へと歩きながら、
「まったく便利な世の中になったなあ。情報化社会も、ここまでくれば立派なものだ。」
と、つぶやき、すべての窓の鍵をかけてしまった。
そうこの時代、エレクトロニクス等の発達で、一軒々々、その家に必要な情報だけが流れ、そうでないものは、決して流れてこないシステムになったのである。例えば、「某国の女王死去」など、他国の一般庶民には、何の利益もない馬鹿げたニュースである。それより、
「お宅の愛犬、ポチが、今日午後五時頃、不良グループにからまれましたが、逆に、全員にかみつきました。」となると、その犬のディナーは、きっと赤飯となろう。このように、情報が正確かつ敏速に直接、テレビに送られてくるのである。
ところで、家主は、それから警察に電話して、護衛に来てくれるように頼んだ。しばらくして、ピンポーン。
「警察のものですが、護衛にまいりました。」
「ああご苦労さま。」
「それでは、あなた方はそちらの部屋に内鍵をかけ、テレビでも見ていてください。ああ、それから、金庫のある場所を教えといてください。犯人が、そちらに行かないようにしますので。」
「隣の部屋にありますが、最新型なので、大丈夫だと思いますが。」
「いや、念には念を入れて、それでは。」ガタン。
それから、金庫のある部屋では。
「GM7か。これならどうにかなるな。」
と、その警官はつぶやき、少々時間はかかったものの、手際よく開けてしまった。
そのころ、家主の部屋では、
「ピンポーン。臨時ニュースを申し上げます。今そちらにきている警官は、一か月前に懲戒処分になっています。あとはご想像にお任せします。以上。」
「何だと。」
それとほぼ同時に、その元警官の持っているポケットテレビでも、
「ピンポーン。臨時ニュースを申し上げます。家主があなたに気づいたようです。すぐに逃げた方が良いかと思われます・・・。」
「まったく良い世の中になったぜぇ。」
と、彼は捨て台詞を残し、窓から颯爽と飛び出した。
「あ、今入った情報によりますと、その家は、完全に包囲されているとのことです。以上。」

※「チャレンジコンテスト第1回作品集 ’84年度前期」(福武書店(現ベネッセコーポレーション))SF部門佳作 入選作品です。なお、著作権は現在、本著者に帰属しています。約35年前の作品で、作中で出て来る「ポケットテレビ」は、現代では「スマホ」が妥当とは思われましたが、その当時の自身の発想に敬意を表し、原文のままといたしました。当時、進研ゼミを受講された皆様にも、懐かしく高校時代をご回想いただければと存じます(著者)。

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