デリバリーボックス。

21XX年。
 この時代、デリバリーボックスサービスを利用すると、欲しい飲食物をその場で入手することが可能となっている。これは、20-21世紀の分譲マンション(コンドミニアム)にあった宅配物等を受け取る宅配ボックスとは異なり、注文した料理はこのボックスの中でその場で製造され、そのまま受け取れるシステムになっていた。

 実は、この時代からさかのぼること十数年前、人間の摂るべき栄養は全て錠剤または液体剤となり、人びとはバーチャルリアリティーを駆使した疑似様体験により、錠剤を食べているのに、あたかもフランス料理を食べているような「錯覚」の中で「食べ物」を摂るシステムになっていた。しかし、数年でその時代は過ぎ去り、その虚無感を味わった人々は原点回帰を果たした。すなわち、「リアル」な食事でなければ、人びとの食欲と心は満たされないことが分かり、このデリバリーボックスを通じて、アミューズ、オードブル、スープ、ポワソン、ソルベ、アントレ、・・・・と順番に注文したその日のリアルな料理が運ばれ、リアルに食べる仕組みとなったのだ。

 そして、タイムマシンでこの時代を訪れ、このシステムを満喫していたデルタ氏は考えた。
「これは究極のサービスといっても過言ではないな。よ~しっ、まだ誰も頼んでいない究極の料理を頼んでみよう。この時代の人工知能(AI)がどういう反応を示すか楽しみだな~。」
 デルタ氏は、デリバリーボックスに向かったリクエストした。
「今日は、究極の料理をいただきたい。準備してもらおうか。」 
「かしこまりました。」
 AIの反応はいつも通り、自信ありげにすこぶる速かった。

「お待たせいたしました。」 
わずか数秒でボックスの扉が開いた。
高級そうな皿の上には、丸ごと1個の赤い物質がたたずんでいた。
「これは、、、トマト。」
「馬鹿にしているっ。これが料理かっ?」

 デルタ氏は怒ってそのトマトを床に投げつけようとしたが、一目でこれまで見たことの無いそのトマトの外見に魅かれて、一口だけかじってみた。 甘味と酸味の絶妙のバランスとなめらかな舌触りとその旨味成分。
「これはっ、、、」
 ちょうどその時、デルタ氏の手に埋め込まれたウェアラブルスマホから決済の電子音が鳴った。それに目をやると、、、
『メインディッシュ 21XX年5月10日 10,000円』
「やれやれ、とんだ究極の料理だ。」
その言葉とは裏腹に、デルタ氏の顔を満足げにほころんでいた。

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