オメガ氏、25歳。彼は悪の道に手を染め、既に数名を殺めている極悪人である。
「俺は、もう地獄行きだよな。地獄ってどんなところだろう?」
彼は自宅の二階の自室で、今となっては物珍しいちゃぶ台のようなテーブルに肩肘をつき、シングルモルトウィスキーをちびちびと口に運んでいた。
「今、改心してこの世で罪を償えば、天国に行くチャンスは俺にあるのだろうか?よしっ、地獄を行こうが、逃れられようが、明日、自首しよう。そう、明日。。。」
そんなことを考えながら、そのままテーブルにうなだれ、うとうとと夢の世界へと誘われた。
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ここは、2XXX年のブレーム公国。人口が過密の一途を辿っており、首都パテルポでも大きな社会問題となっていた。この国では、人口対策省を設置して、「人口削減」という異例の政策を打ち出してその対策に乗り出していた。その一環として、昨年、「死刑法」が制定公布され、施行された。この法律は、小さい犯罪としては、万引きから、大きな犯罪としては、殺人まで、いかなる犯罪も「死刑」に処されるという恐ろしい法律となっている。その犯罪の大小によって、ⒶからⒿまで10段階に分けられ、さらに段階毎に6つに分けられ、結果として、犯罪者毎に60種類もの死刑の方法が取られていた。万引きの類の犯罪は、Ⓙに位置付けられ、それからサイコロの出た目で、死刑の種類が自分の運で決められる仕組みとなっている。例えば、Ⓙ-サイコロの「1」の目であれば、夕食に混ぜられた「薬」で、痛みを全く伴わず、その晩、寝たら翌朝には帰らぬ人となるというマイルドは処刑がなされると噂されている。しかし、処刑の具体的な方法は国家機密として、その実情を知る者は誰一人としていない。
この法律が施行されて、生きがいを無くした高齢者が、人生の終焉を求めて犯罪に手を染める例が頻発して起こるようになっていた。公な政府見解ではないが、人口過密問題だけでなく、高齢化社会の打開にも役立っていると、ブレーム政府は自画自賛しているのではないかと噂されていた。そして、出世率を死亡率が大きく上回り、人口過密が緩和されていく様子をオメガ氏は目の当たりにした。。。
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「オメガっ~、いつまで寝ているんだいっ!」
一階から大きな母親の声が自宅に響いた。
「うんっ?」_
「なんだ、夢か~。」
何かリアルな夢だったな。家にいても、煙たがられる存在のオメガ氏は、とぼとぼと街へと出掛けた。広い公園を歩いていると、いつの間にか辺りは薄暗くなり、人気も無くなってきた。気が付くと、自分の目の前に、健康のためのウォーキングをする一人の人影が見えた。
「夢の中とは言え、そして俺が言うのも何だが、未来の世界では、政府があんな人道外れた法律を作らないといけないぐらい、人口問題に苦労することになるんだよな。」
「私の今までの、そしてこれからの行為は、未来の人口問題に貢献することになるのでは?」
そして、オメガ氏の心は悪の道へと戻り、その人影へと迫って行った。
「この世で罪を悔いるという、昨晩考えていたあの意志はどこへ行ったのか。私がちょっと『夢』を与えただけで、正しい道への考えを放棄する、そんな下等な生き物へと人間は成り下がってしまったようだ。私にとっても喜ぶべき兆候ではあるが。」
その事件の裏の仕掛人、悪魔Mは、「オメガ・シュレーダ。罪状:殺人。これからどんな償いをしようと、「地獄行き」決定。」と「地獄」スタンプをオメガ氏の顔写真に力強く押してニヤリと微笑んだ。
「これで今月は、13人を地獄送りにできたな。」
二桁人数もの地獄送りを今月もまた継続し、悪魔Mは、悪魔協会の課長昇進を確実なものとした。
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