脱出、輪廻転生。

「先生、赤ちゃんが泣きません。。。」
新米看護師の絵里が少し焦って先生に話しかけた。
「大丈夫だよ。心配ない。」
少し間をおいて、産まれたばかりの『わたし』は大きな産声を上げた。

・・・・・・

「うん?」
目を覚ましたばかり、いや、産まれたばかりのわたしは、看護師の女性の言葉を聴いた。
「先生、赤ちゃんが泣きません。。。」
ここで、私は確信した。ようやく、人間に生まれ変わることができたようだ。
「長かった・・・ここまで。」
余韻に浸る間を無く、私は息が苦しいことに気付いた。
『そうだ、臍の緒を切られたので、肺呼吸をしないと。。。自然に横隔膜が動いて肺が膨らむのを待つのは、『意識』があるわたしには少々地獄だ。』
自分自身の肺を急いで膨らませるため、わたしは大きな産声を上げた。

・・・・・・

 わたしが人間の世界で、どうやら何やらしでかしたようだ。『輪廻転生』という単語は知ってはいたが、まさか自分がそのサイクルの中に入れられようとは、思いにもよらなかった。
しかし、その「原因」がまったく思い当たらない。正確に言うと、思い出せない。もっと、正確に言うと、「人間」だったときの記憶が全て飛んでいるのだ。
「じゃ、なぜ、自分が輪廻転生の世界に入り込んだのかがわかるの?」
という疑問が、普通の人たちには湧くかも知れない。
それは、そうでしょ。自分の姿を想像すると、、、

 どうやら私は、水の中に生息する非常に小さい生物に生まれ変わっているようだ。
想像するに、何か手を動かしてようだか、周りに水の流れに逆らうことが出来ない。それと、私の目の前には、メダカみたいな巨大な魚が見える。この相対的な物理的関係を鑑みると、どうやら、わたしはミジンコではないかと推定された。そして、不運なことに、その巨大な魚はわたしへと向かって来る。す~っと水の流れが巨大な魚に向かって生じたかと思うと、わたしは暗闇の胃袋へと吸い込まれて行った。。。
「やれやれ、どうやら食物連鎖の中で、わたしの命は一瞬で消滅・・・」
私の意識もまた途中で途絶え、暗黒の世界へと吸い込まれて行った。

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