その年は、梅雨が例年より長く、ようやく梅雨が空けたと思ったら、一滴の雨も降らない、カンカン照りの夏日が続き、稲の生育が懸念されていた、そんな年だった。・・・・・・
「ねえ、ねえ、ばあちゃん。」
「何だい?アオイ。」
「アジサイの木の下に、何かぁ、白い、フサフサの、犬?アザラシ?みたいな動物がいるんだけど。。。」
「何だろうね?」
「来て、見て。」
アオイはばあちゃんの手を引っ張り、庭へと連れ出した。
「ほらほら、見て~。」
「どれどれ、・・・何もいないじゃないか。」
「え~、そこにいるじゃない。」
「・・・・・」
ばあちゃんの目には何も映っていなかったが、アオイに問いかけた。
「アオイ、それは白くて、フサフサか?」
「そう言ったじゃない。」
「それは、『シオン』じゃ。まだ、この土地にいてくれたのか。」
「シオン?それって何?」
「アオイのばあちゃんの、そのまたばあちゃんに聞いて、もうあんまり覚えていないが。村の守り神じゃ。確か、ばあちゃんも小さい時にシオンを見たことがある。その年も日照りが続いて、稲が危ない年じゃった。確か、茶畑のところだったかな。ばあちゃんが村長さんに言って、シオンにお供え物をして、神主さんがご祈祷をすると、なぜかシモ村だけ雨が降ってきたのを覚えておる。その年は、カミ村もナカ村も不作だったので、村を超えて米を分けおうたのぉ。」
「こりゃ、大変だ。お父さんを呼んで来て。急いで。」
それからバタバタと村長さんや神主さんや村人がたくさん集まり、お供え物と共に盛大なご祈祷が行われた。村は真夏なのに、まるで秋祭りの様相だった。
その時、地面をも揺るがすような大きな雷鳴が響き、もくもくと辺りが暗闇に覆われたかと思うと、シモ村の土地がみるみる湿地へと変わって行った。
「ばあちゃん、ばあちゃん、シオンがいなくなったよ。」
縁側からアジサイの辺りを見ていたアオイが、ばあちゃんに話しかけた。
「多分、大丈夫じゃ。シモ村が大変な時はきっとまた現れるはずじゃ。アオイ、その時は同じように振舞うんじゃよ。分かったな。」
「うんっ。でも、アオイにまた見えるかな?」
「大丈夫じゃ、村の幼子にはきっと見えるはずじゃからな。」
「でもね、ばあちゃん。アオイね、大きくなったら、外国で暮らすの。シオンって誰が教えるのかなぁ?」
日本の限界集落では、このようにして守り神に誰も気付かなくなり、いわゆる「異常気象」が続くようになったかも知れない。。。
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